東京高等裁判所 昭和43年(ネ)2167号 判決 1969年1月24日
控訴人
野田幸夫
被控訴人
堀田修嗣
主文
一、原判決を取り消す。
二、控訴人が、堀田信に対する長野地方裁判所松本支部昭和三九年(ワ)第一八四号家屋明渡等請求事件の判決にもとづき、原判決別紙目録記載の物件に対してした強制競売の売得金について、被控訴人が、元金一〇万円とこれに対する昭和四三年四月一二日から昭和四四年四月一二日までの年七分の利息ならびに昭和四四年四月一三日から完済まで日歩一銭九厘の損害金の限度で、控訴人に優先して弁済をうける権利を有することを確認する。
三、被控訴人のその余の請求を棄却する。
四、訴訟費用は、一、二審を通じて二分し、その一を控訴人の、その一を被控訴人の各負担とする。
五、本件について長野地方裁判所松本支部が昭和四三年五月二日にした強制執行停止決定を取り消す。
六、本判決確定前に前二項記載の競売事件の配当を実施する場合には、執行吏は、売得金のうち第二項記載の金員を、被控訴人のため供託せよ。
七、本判決第五、六項はかりに執行することができる。
事実
一 控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。
二、被控訴人は、請求の原因を次のとおり述べた。
1 控訴人は、訴外堀田信に対する金銭債権の強制執行として、長野地方裁判所松本支部昭和三九年(ワ)第一八四号家屋明渡等請求事件の確定判決にもとづき、昭和四三年四月一九日原判決別紙目録記載の有体動産を差し押えた。
2 しかし、右物件は、被控訴人が、昭和四三年四月一二日堀田信に対し、金一〇万円を弁済期昭和四四年四月一二日、利息年七分、損害金日歩一銭九厘の約で貸与し、その担保として堀田信から信託譲渡をうけたものである。
3 したがつて、右物件は被控訴人の所有に属し、控訴人の堀田信に対する債務名義によつて強制執行をうけるべき対象ではないから、右強制執行は許されない旨の判決を求める。
右のように述べ、控訴人の抗弁事実を否認した。
三、控訴人は、答弁として、右1の事実は認めるが、2の事実は否認すると述べ、抗弁として、かりに2の事実が認められるとしても、それは、兄弟である同人らが、強制執行を免れるために通謀してした虚偽の意思表示であつて、無効であると述べた。
四 <証拠省略>
理由
一、被控訴人が請求原因として主張する1の事実は当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すれば、同2の事実を認めることができる。控訴人の抗弁事実を認むべき証拠はない。
二、およそ、債権担保のために所有権移転の形式をとつた場合(譲渡担保)は、債権者のために優先弁済権を確保すれば目的を達するのであるから、債権者は、弁済期に弁済がなければ、譲渡担保物件を換価処分してその代金を被担保債権の弁済にあてることができるけれども、残額があれば物件提供者に返還すべきであり、逆に、換価金が被担保債権に足りなければ、債権者は不足金について債務者の財産に執行できるものと解すべく、一方、債務者は、債権者が換価処分(または評価清算)をするまでは、被担保債権を弁済することによつて、譲渡担保物件を取り戻しうるものと解するのが相当である(昭和四三年三月七日最高裁判所判決・民集二二巻三号五〇九頁参照)。したがつて、債権者が、右処分をするまでに、譲渡担保物件について第三者に主張できる権利は、目的物についての優先弁済権のみであつて、担保の目的をこえて所有権を主張し、第三者異議の訴(民訴法五四九条)によつて後順位債権者の強制執行を全面的に排除することは許されず、民訴法五六五条の優先弁済の訴が許されるにとどまるものというべきである(昭和四一年四月二八日最高裁判所判決・民集二〇巻四号九〇〇頁、昭和四二年一一月一六日同・民集二一巻九号二四三〇頁各参照)。
三、よつて、被控訴人の被担保債権の弁済期が未だ到来せず、かつ譲渡担保物件の使用が設定者たる堀田信に委ねられていた本件事案のもとにおいて、被控訴人の権利は前記二に述べた譲渡担保権者のそれであること明白というべく、被控訴人の本件物件に対する所有権を是認し第三者異議の訴を認容した原判決は過当で取消を免れず、被控訴人の本訴請求は、優先弁済確認の範囲においてのみ認容されるべきである。よつて、民訴法九二条・五四七条、五四八条、五六五条二項を適用して、主文のとおり判決する。(谷口茂栄 瀬戸正二 友納治夫)